永久病棟

『やはり、君は少々頭がおかしいようだね』 自分が『マトモ』だという事を証明するために行った病院にて、 初老の精神科医にやさしくそう言われて、 なんだかよく分からないうちに精神病棟に入院する事になった。 僕の頭はぜんぜんおかしくないのに。 例えば…

完璧な彼女

あの頃、みんなあの娘に夢中だった。 容姿端麗、成績優秀。 彼女が白だと言えば、カラスだって白くなった。 世界のすべては彼女のためにあったんだと思う。 誰もが、みんな、馬鹿みたいに彼女に憧れていた。 とにかく彼女は、そういう完璧な花のような女の子…

燃えないごみの日

今日は燃えないごみの日ですか? そうです。燃えないごみの日です。 では、私はこれを捨てます。 あなたは何を捨てるんですか? ナイショです。 ナイショですか? そうです、ナイショです。 ところで、あなたのゴミ袋くさくありませんか? え?臭いですか? …

ストレス社会

『気軽に何かを言おう!!!』 僕の隣に座っていたオジサンは唐突にそう叫けぶと急に立ち上がった。 僕はびっくりした。 あたりまえだ。 電車内で叫ぶ人なんてそうそういない。 それに、その叫んだ言葉の意味もよくわからない。 気軽に何かを言おう? 一体、…

一瞬の痛み

『ぬあぁあああああああああああああ!!!』 激痛に襲われて悲鳴を上げていた僕は担架に乗せられたまま、勢いよく手術室に運び込まれた。 急性の盲腸だった。 痛い。痛すぎる。 『はーい。じゃあ、麻酔かけますよぉ』 看護師さんはそう言うと、僕に向かって…

会いたいキモチ

『ずっと、貴方に会いたかったのよ』 僕が顔を上げると、肌の白い女性が立っていた。 『・・・はい?』 彼女は上品な笑顔を浮かべた。 『多分、貴方はまだ私の事を知らないでしょう?だけど、私はもうずっと前から貴方の事を知っているのよ。いい?これだけ…

終わりの始まり

「こんにちわ」 ぺータは鏡の中にいた自分そっくりの人に話しかけた。 「こんにちわ」 一秒も経たずに、鏡の中の彼は答えた。 声までぺータそっくりだった。 ぺータは話相手ができたのが嬉しくて嬉しくて、毎日彼に話し続けた。 そんなある日、うんざりした…

エンドロール

『さようなら』 彼女は電話越しにそう言った。 そこでその映画は幕を閉じた。 音楽が流れてエンドロールが流れ始めた。 これまで出てきた出演者やスポンサー、製作者の名前が流れていく。 そして頭の中に『fin』の文字が浮かんだ。 映画はもうこれで終わり。…

星の記憶

空を見上げるとシリウスが見えた。 誰かが知ったかぶった。 『ねぇ知っている?あの光はもう何億年も前に放たれた光なんだよ』 そうなんだと、 また別の誰かが感心して言った。 『じゃあ今は、もうそこにないのかもしれないね』あの星がもしももうすでに此処…

実験室

実験室に閉じ込められたモルモットの様に。 僕らは科学者たちに観察されている。 様々な環境。 様々な投薬。 様々な状況。 それらを与えられて。 科学者は目を爛々とさせて僕らは見つめている。 『さぁ、その結果を見せてくれよ』 僕らはまるでモルモットの…

老人と季節

老人が歩いている。 『歩いている?彼はちっともそこから動いちゃいないじゃないか?』 誰かはそう言った。彼はこの道を歩いてきたのか? それともただ景色が移り変わっていっただけなのか? 身動き一つ取らずに、彼を取り巻く環境だけがどんどん流れて行っ…

お化粧

『お化粧しましょう』 神様はそう言った。 汚い部分は上塗りして、 さも初めから何もなかったかのように。 『お化粧しましょう』 神様は今日もまたそう言って。

注射針とサングラス

昨日、インフルエンザのワクチンを身体の中にぶち込まれた。 ドクターはメガネをかけたヒョロヒョロの初老男性で『今からこいつをお前の体内へブチ込んでやる』と言い、注射針を俺の身体の中に捻じ込み、『ひひひ。痛いかい?ねぇ、痛いかい?ひひひ』と何や…