散文

永久病棟

『やはり、君は少々頭がおかしいようだね』 自分が『マトモ』だという事を証明するために行った病院にて、 初老の精神科医にやさしくそう言われて、 なんだかよく分からないうちに精神病棟に入院する事になった。 僕の頭はぜんぜんおかしくないのに。 例えば…

エンドロール

『さようなら』 彼女は電話越しにそう言った。 そこでその映画は幕を閉じた。 音楽が流れてエンドロールが流れ始めた。 これまで出てきた出演者やスポンサー、製作者の名前が流れていく。 そして頭の中に『fin』の文字が浮かんだ。 映画はもうこれで終わり。…

星の記憶

空を見上げるとシリウスが見えた。 誰かが知ったかぶった。 『ねぇ知っている?あの光はもう何億年も前に放たれた光なんだよ』 そうなんだと、 また別の誰かが感心して言った。 『じゃあ今は、もうそこにないのかもしれないね』あの星がもしももうすでに此処…

実験室

実験室に閉じ込められたモルモットの様に。 僕らは科学者たちに観察されている。 様々な環境。 様々な投薬。 様々な状況。 それらを与えられて。 科学者は目を爛々とさせて僕らは見つめている。 『さぁ、その結果を見せてくれよ』 僕らはまるでモルモットの…

老人と季節

老人が歩いている。 『歩いている?彼はちっともそこから動いちゃいないじゃないか?』 誰かはそう言った。彼はこの道を歩いてきたのか? それともただ景色が移り変わっていっただけなのか? 身動き一つ取らずに、彼を取り巻く環境だけがどんどん流れて行っ…

お化粧

『お化粧しましょう』 神様はそう言った。 汚い部分は上塗りして、 さも初めから何もなかったかのように。 『お化粧しましょう』 神様は今日もまたそう言って。