完璧な彼女


あの頃、みんなあの娘に夢中だった。
 

容姿端麗、成績優秀。
彼女が白だと言えば、カラスだって白くなった。

世界のすべては彼女のためにあったんだと思う。

誰もが、みんな、馬鹿みたいに彼女に憧れていた。
とにかく彼女は、そういう完璧な花のような女の子だったんだ。


でも、僕はあまり彼女のことが好きじゃなかった。
というより、むしろ嫌いだった。


昔からそうだった。
僕は、おそろしくへそ曲がりだから、みんなが欲しがるものは欲しがらない。


独自性と、圧倒的な個性に惹かれるんだ。
僕にとっては、普遍的で絶対的なものこそ、嫌いなものだった。

だから、いつも少数派であり続けた。
でも、それが悪いとは思わない。

むしろ、それを望んでいたし、それで満足だった。

だからこそ僕は、みんなが憧れるあの娘の存在が嫌いだったし、またそれ以上に彼女に夢中だった人間を軽蔑していた。


ある六月の帰り道、僕は、電車内で彼女とばったり会った。


彼女の美しさは、そこが草原だろうが、ゴミ処理場であろうが、どこであろうとも、おそろしく際立っていて、当然電車内でも同じことが言えた。

ラムネ瓶のように淡い水色のワイシャツの上に、クリーム色のラルフローレンのベスト。 流水のようにさらさらの髪の毛はミッキーマウスの髪留めでまとめていて、品の良いバニラの匂いがした。


彼女と話をする中で、性格の悪い僕は、みんなが彼女に夢中であることを包み隠さず話した。


完璧な彼女は、それに対してどう考え、何を思うのか。
なんとなく、完璧な彼女の思考に興味があったんだ。


僕の話を眠るように聞いていた彼女は僕が話し終わると、ふむふむと頷き平然とした顔で答えた。


『みんなが私のことを好いてくれるのは、とてもうれしいことだし、光栄だと思うけど…。正直私、男の人に興味がないの。 私、成熟した女の人が好きなの。』



その瞬間、僕は彼女に惚れていた。


彼女はやっぱり完璧だったのだ。