老人と季節

 

 

老人が歩いている。


『歩いている?彼はちっともそこから動いちゃいないじゃないか?』


誰かはそう言った。


彼はこの道を歩いてきたのか?


それともただ景色が移り変わっていっただけなのか?



身動き一つ取らずに、彼を取り巻く環境だけがどんどん流れて行った。

移り変わっていった。

 


長い年月の間、老人にできた事と言えばただ一つ。



ただ『見ている』ということ。


決して動かなかったとしても。


やがて向こうから季節がやって来る。